おまけ: ODのための換算表

オーバードーズ(OD)について

ODとはオーバードーズ(overdose)の略で、薬品を過剰摂取すること(過量服薬)である。自殺の方法の一種としてとられることもあるが、未遂に終わることが多い。ラリる感じが好きで向精神薬(特に睡眠薬・抗不安薬)をODするひとが多いのではなかろうか。平成26年度全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査によると、乱用されていた睡眠薬・抗不安薬の上位はこのようになっている。

薬剤名 n
エチゾラム(デパス) 120
フルニトラゼパム(サイレース・ロヒプノール[製造終了]) 101
トリアゾラム(ハルシオン) 95
ゾルピデム(マイスリー) 53
ベゲタミン(製造終了) 48
ニトラゼパム(ベンザリン・ネルボン) 35
ニメタゼパム(エリミン[製造終了]) 32
ブロチゾラム(レンドルミン) 32
アルプラゾラム(ソラナックス・コンスタン) 27

向精神薬の等価換算

向精神薬には、主に統合失調症治療に用いられる抗精神病薬・抗うつ薬・睡眠薬・抗不安薬・抗パーキンソン薬などがあり、それぞれに様々な種類の薬剤が存在する。しかし、各々が異なる力価を持つため、違う薬に切り替えるときに全く同じmg数で投与することはほぼありえない。このときに参考になるのが稲垣・稲田による向精神薬の等価換算表である。もちろん、かれらが「等価換算表を利用する際の留意点」で強調しているように、たとえば抗精神病薬の鎮静作用、抗不安薬や睡眠薬の離脱症状などは考慮されていないため、換算表は単に目安に過ぎない。また、たとえば睡眠薬には超短期作用型・短期作用型・中間型・長期間型があり、ODしたさいの効き方が全く異なるのも事実である。あるいは、即放剤と徐放剤の違いも大きいことも考慮に入れなければならない。これらを頭に入れた上で、抗精神病薬のクロルプロマジン換算・抗不安薬と睡眠薬のジアゼパム換算・抗うつ薬のイミプラミン換算を見て、安全にODするときの参考にしていただきたい。以下の換算表は2017年版に準拠して計算したものである。

抗精神病薬: クロルプロマジン換算

抗精神病薬は定型抗精神病薬のクロルプロマジンを基準にした換算が行われることが多いが、そのため非定型抗精神病薬に関して換算値が正しいのか、信頼できるのかについては議論がある。クロルプロマジン換算とはクロルプロマジン100mgがその薬剤の何mgに相当するかという換算値である。現在流通している剤型について、交互に換算できる換算機を作ってみた。

一般名 クロルプロマジン換算値 商品名
アリピプラゾール 4 エビリファイ
アリピプラゾール
オキシペルチン 80 ホーリット
オランザピン 2.5 ジプレキサ
オランザピン
クエチアピン 66 セロクエル
ビプレッソ
クエチアピン
クロカプラミン 40 クロフェクトン
クロザピン 50 クロザリル
クロルプロマジン 100 コントミン
クロルプロマジン塩酸塩
スピペロン 1 スピロピタン
スルトプリド 200 バルネチール
バチール
スルトプリド塩酸塩
スルピリド 200 ドグマチール
ミラドール
アビリット
スルピリド
ゾテピン 66 ロドピン
セトウス
ロシゾピロン
ゾテピン
チアプリド 100 グラマリール
チアプリド
チアプリド塩酸塩
チミペロン 1.3 トロペロン
チミペロン
パリペリドン 1.5 インヴェガ
ハロペリドール 2 セレネース
リントン
ハロステン
ハロペリドール
ピパンペロン 200 プロピタン
ピモジド 4 オーラップ
フルフェナジン 2 フルメジン
プロクロルペラジン 20 ノバミン
ブロナンセリン 4 ロナセン
ブロナンセリン
ブロムペリドール 2 インプロメン
ブロムペリドール
ペルフェナジン 10 トリラホン
ピーゼットシー
ペロスピロン 8 ルーラン
ペロスピロン塩酸塩
モサプラミン 33 クレミン
リスペリドン 1 リスパダール
リスペリドン
レセルピン 0.15 アポプロン
レボメプロマジン 100 ヒルナミン
レボトミン
レボメプロマジン

抗不安薬・睡眠薬: ジアゼパム換算

クロルプロマジン換算は有名だが、他の換算になると一気に知名度が下がる。抗不安薬・睡眠薬での換算はジアゼパムを用いて行われ、ジアゼパム換算と呼ばれる。ジアゼパム換算とはジアゼパム5mgがその薬剤の何mgに相当するかという換算値である。現在流通している剤型について、交互に換算できる換算機を作ってみた。

一般名 ジアゼパム換算値 商品名
アルプラゾラム 0.8 ソラナックス
コンスタン
アルプラゾラム
エスゾピクロン 2.5 ルネスタ
エスタゾラム 2 ユーロジン
エスタゾラム
エチゾラム註1 1.5 デパス
デゾラム
エチゾラム
オキサゾラム 20 セレナール
クアゼパム 15 ドラール
クアゼパム
クロキサゾラム 1.5 セパゾン
クロチアゼパム 10 リーゼ
クロチアゼパム
クロナゼパム 0.25 ランドセン
リボトリール
クロバザム 10 マイスタン
クロラゼプ酸 7.50 メンドン
クロルジアゼポキシド 10 コントール
バランス
クロルジアゼポキシド
ジアゼパム 5 ホリゾン
セルシン
ジアパックス
ジアゼパム
ゾピクロン 7.5 アモバン
アモバンテス
ドパリール
ゾピクロン
ゾルピデム 10 マイスリー
ゾルピデム酒石酸塩
タンドスピロン 25 セディール
タンドスピロンクエン酸塩
トフィソパム 125 グランダキシン
グランパム
トフィソパム
トリアゾラム 0.25 ハルシオン
ハルラック
トリアゾラム
ニトラゼパム 5 ベンザリン
ネルボン
ニトラゼパム
ニメタゼパム 5 エリミン註2
ハロキサゾラム 5 ソメリン
フェノバルビタール 15 フェノバール
フルジアゼパム 0.5 エリスパン
フルタゾラム 15 コレミナール
フルトプラゼパム 1.67 レスタス
フルニトラゼパム 1 サイレース
ロヒプノール註3
フルニトラゼパム
フルラゼパム註4 15 ダルメート
ブロチゾラム 0.25 レンドルミン
グッドミン
ノクスタール
ソレントミン
ブロチゾラム
ブロマゼパム 2.5 レキソタン
セニラン
ブロマゼパム
ペントバルビタール 50 ラボナ
メキサゾラム 1.67 メレックス
メダゼパム 10 レスミット
リルマザホン 2 リスミー
塩酸リルマザホン
ロフラゼプ酸 1.67 メイラックス
ジメトックス
ロフラゼプ酸エチル
ロラゼパム註5 1.2 ワイパックス
ロラゼパム
ロルメタゼパム 1.2 エバミール
ロラメット
[註1]: 最近までジェネリックの「エチカーム」が存在した。
[註2]: 2015年11月をもって販売中止
[註3]: 2018年8月をもって販売中止
[註4]: 2014年まで先発品「ベノジール」が存在した。
[註5]: 最近までジェネリックの「ユーパン」が存在した。

抗うつ薬: イミプラミン換算

クロルプロマジン換算、ジアゼパム換算に引き続き、つぎはイミプラミン換算である。抗うつ薬の換算はイミプラミンを用いて行われ、イミプラミン換算と呼ばれる。イミプラミン換算とはイミプラミン150mgがその薬剤の何mgに相当するかという換算値である。現在流通している剤型について、交互に換算できる換算機を作ってみた。

一般名 イミプラミン換算値 商品名
アミトリプチリン 150 トリプタノール
アモキサピン 150 アモキサン
イミプラミン 150 トフラニール
イミドール
エスシタロプラム 20 レクサプロ
クロミプラミン 120 アナフラニール
スルピリド 300 ドグマチール
ミラドール
アビリット
スルピリド
セチプチリン 6 テシプール
セチプチリンマレイン酸塩
セルトラリン 100 ジェイゾロフト
セルトラリン
ドスレピン 150 プロチアデン
トラゾドン 300 レスリン
デジレル
トラゾドン塩酸塩
トリミプラミン 150 スルモンチール
ノルトリプチリン 75 ノリトレン
パロキセチン 40 パキシル[CRは下を参照]
パロキセチン
パロキセチンCR 50 パキシルCR
フルボキサミン 150 デプロメール
ルボックス
フルボキサミンマレイン酸塩
ベンラファキシン 150 イフェクサーSR
マプロチリン 150 ルジオミール
クロンモリン
マプロミール
マプロチリン塩酸塩
ミアンセリン 60 テトラミド
ミルタザピン 100 リフレックス
レメロン
ミルタザピン
ミルナシプラン 100 トレドミン
ミルナシプラン塩酸塩
ロフェプラミン 150 アンプリット

ベゲタミンの作り方

今はなき古典的睡眠薬ベゲタミン。過量摂取時に致死性の高い精神科治療薬の2位にランクインしている(オッズ比43、1位はラボナのオッズ比104、引地: 2016 精神神経学雑誌)。過量服薬入院患者において、ICU入室遷延や誤嚥性肺炎などを伴う臨床経過不良を示す薬剤のトップがベゲタミンである(ICU入室遷延率は20.2%、誤嚥性肺炎合併率は28.8%、市倉・他: 2016 PLOS ONE)。飲む拘束衣とも称され、「眠るというよりは気絶するに近い」という患者の言がある。

ベゲタミンの内実はクロルプロマジンとプロメタジンとフェノバルビタールによる複合製剤である。2016年12月29日をもっては製造中止(ならびに販売中止)になっているが、ベゲタミン(とくにA=赤玉)の人気はまだ高い。それぞれの成分は製剤がまだ販売されているので、錬成方法を考えてみよう。

まず、ベゲタミンA(赤玉)1錠中の有効成分の内訳はクロルプロマジン塩酸塩25mg・プロメタジン塩酸塩12.5mg・フェノバルビタール40mgである。ベゲタミンB(白玉)1錠中にはクロルプロマジン塩酸塩12.5mg、プロメタジン塩酸塩12.5mg、フェノバルビタール30mgが入っている。これらから、ベゲAの人気がなぜ高いかわかるだろう。有効成分の量が多いからである。

クロルプロマジンを含有する製剤はコントミン、プロメタジンを含有する製剤はピレチア、フェノバルビタールを含有する製剤はフェノバールである。

ベゲタミンA 2錠 = クロルプロマジン50mg + プロメタジン25mg + フェノバルビタール80mg

ベゲタミンA 2錠 = コントミン12.5mg × 4錠 + ピレチア5mg × 5錠 + フェノバール30mg × 2.7錠(約3錠)

ベゲタミンB 2錠 = クロルプロマジン25mg + プロメタジン25mg + フェノバルビタール60mg

ベゲタミンB 2錠 = コントミン12.5mg × 2錠 + ピレチア5mg × 5錠 + フェノバール30mg × 2錠

クロルプロマジン(コントミン)のかわりに同じフェノチアジン系のレボメプロマジン(ヒルナミン/レボトミン)を使ってもよい。クロルプロマジン換算値は同じなので、必要錠数は同じである。また、フェノバルビタール(フェノバール)のかわりに同じバルビツール酸系であるペントバルビタール(ラボナ)を使っても構わない。この場合、ペントバルビタール50mgがフェノバルビタール15mgに相当するので(ジアゼパム換算)、フェノバール2.7錠はラボナ5.3錠(約5錠)、フェノバール2錠はラボナ4錠に相当する。ピレチアのかわりにヒベルナを用いてもよい。剤型も5mgと25mgが出ており全く同じである。

口腔内崩壊錠(OD錠)について

口腔内崩壊錠(OD錠、D錠など)というタイプの錠剤がある。ODはOral Disintegratingの略で、水なしでもさっと溶けてすぐに飲めることが特徴である。ちなみにチュアブル錠は噛み砕いて少量の唾液や水とともに飲むのが正しい。ジプレキサザイディス錠、エビリファイOD錠などがOD錠の代表例である。

すぐに溶けるので、吸収速度が速いという誤解があるようだが、消化管から吸収されることには変わりないので、効果の発現は通常の錠剤と同じ速度となる。なお、吸収速度が速いという誤解はおそらく舌下錠との混同によるもので、舌下錠は舌の下に崩壊するまで置いて口腔粘膜から吸収させる錠剤である。たとえばアセナピン製剤シクレスト舌下錠、精神科薬に限らず言えば心臓薬のニトログリセリンなどがその代表例だ。舌下粘膜から吸収させると何がよいかというと、肝臓での初回通過効果を受けずに薬物が全身に運ばれる点であり、アセナピンなどは初回通過効果が大きすぎるため一度開発が断念されかけた経緯もある。舌下錠を通常の錠剤のように飲み込むと、初回通過効果を受けてしまうため薬効が無効になったり、そうでなくても効果の発現が遅れたりする。一方、OD錠は通常の錠剤のように水で飲んでも効果に差はない。そのため舌下錠はODには向かないが、OD錠は通常の錠剤と同様にオーバードーズできるといえる。

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