+シリンジを使っての採血
 
 
シリンジ採血


病院で行われる採血には大きく分けて2種類ある。シリンジ(注射器)を使ったものと真空管を使ったものだ。シリンジ採血は静脈注射の逆みたいなもので、空の注射器に注射針(直針)をつけ、血管に入れて血を吸い上げる。
知らない人はいないと思うけれど、注射器(針無し)=注射筒とはこんなもの。

syringes (上が5mL、下は3mL)
写真はプラスチック製の使い捨て品だが、ガラス製や金属製のものもある。衛生上の観点から医療・看護ではほとんど全て使い捨てのプラスチックのものを使用する。(ガラス製のものが使われているところといったら質量分析計にサンプル入れるときなど実験用くらいしか思い付かない…。歯科の麻酔では金属製?)製品としては滅菌処理が施されており、個別包装になっている。針がついているものとついていないものとがある。

needles

また、針は差し込んで接続するタイプ(左の写真)、一体形成されているタイプ、ねじ口タイプの三種類があるので、予備などとして針を用意する場合にはそこに注意する。たとえば注射筒がねじ口なのに、用意した針が差し込み接続型では使えない。容量は1mLから100mLまで見たことがあるが、100mLや50mLはさすがに大きすぎてあまり使わない。20mLでも十分大きく感じる。針についてはこちらを参照。

 

 

 

5ml

(5mLのピストンを引いてみたところ)

 

シリンジで自己採血

瀉血の一種としてシリンジで自己採血をする人はそれなりにいる。シリンジを使うとどれくらい血を抜いたか正確に判り、血がそこら中に飛び散らずに済むので後片付けも楽になる。ただしシリンジは片手では引きにくい。まずやっぱり固いし、それに片手ではぐらついて針がぶれやすくなるからだ。手が小さいなら尚更で、無理に引こうとするとシリンジ全体が動いて針が抜けてしまう。駆血帯をしたままなら内出血直行である。変な角度から針を刺さねばならない僕たち瀉血同胞にとっては更に難易度が上がる(笑)。
腕ではやや難しいができないこともない。だがとにかく血を出すのが目的ではなくあくまでシリンジを使って自己採血するのが目的なら、僕が薦めるのは足首の大伏在静脈(血管選び: 具体的な箇所とその危険性を参考)。ここなら両手が使えるし、血管も太めで真っ直ぐに走行しているため刺し易い。

(22Gで大伏在静脈から採血。何故かシリンジの先端に血がない。抜けたのか)

 

手順

普通に瀉血する手順(瀉血の手順)と始めと終わりは同じ。まず駆血帯を少し中枢側に結び(駆血帯の結び方)、血管の位置を確かめる。どこを刺すか決まったら、できればアルコール綿でその位置を消毒する。シリンジは目盛りが上になるように持ち、針のカット面も上になるようにする。シリンジを持つ手と反対側の手で刺す位置のやや手前の皮膚を斜めに引っぱる。こうすると刺し易いし血管が逃げない。しかしあんまりきつく引っぱっても仕方ない。真上から引っぱらないのは鬱血が消えてしまうのもあるが、何よりシリンジに手が当たって邪魔になる。
準備が整ったらさっと刺す!ノロノロ刺すと無駄に痛いし不運な場合には血管を押し退けてしまう。とにかく血管に針が入ると、下の写真で少し血がついている部分に逆血が上がってくる。

血管に針が当たる際、プツッという手応えがある場合もある。弾力のある血管ならよくそうなるというのだが、で僕は若くて血管も元気なはず(!)なのに二度くらいしかそのような手応えを感じたことがない。とにかくちゃんと入っていれば一瞬で逆血が上がってくるので、待てど暮らせど上がってこなければ血管内に入っていないか針が詰まっているかのどちらかだ。逆血が見えたらシリンダーをしっかり固定し、皮膚を引っぱっていた手でピストンをゆっくり引く。速く引きすぎると血管内が脱水することがある(いきなり血液がなくなるために血管が潰れてしまう状態)。また溶血してしまうこともある。ゆっくりすぎても針やシリンジ内で凝血してこれも引けなくなってしまう。目安は0.5mL毎秒くらいかな。
引き終わったら(或いは途中で引けなくなってしまったら、針が血管に当たらなかったら)、針を抜くより前に駆血帯を外す。そうしないと内出血したり痛くなったりして面倒である。

(左は血を引いたシリンジ)
針を抜いたらアル綿でもティッシュでも何でもいいので傷をしっかり抑えて止血する。アル綿が一番だがどうせ傷小さいし別にティッシュでもいいと思うよ(適当)。抑える時間は、病院などでは3分とか5分とか言われるが、そんな長く抑え続けている人は実はあまりいない気がする。しかしかといって、「あ、血止まってる」というだけですぐ離すのは宜しくない。採血に使うような細い針では、皮膚の傷は10秒も抑えていればすぐ塞がる。だが、最低1分間くらいは抑えていないと血管の傷が塞がらないため、たとえ血が出なくても放っておけば内出血ができてしまう。それが終わったらもう別に絆創膏などは必要ない。

 
 
 
採血トラブルシューティング

 

絶対血管内に入っていない。浅いかずれているか、或いは既に突き破ってしまっているかもしれない。どう見ても針の先端しか皮膚に入っていない場合や針挿入の角度が浅い場合はもう少し針を進めてみる。ずれていそうな場合は血管のありそうな方向に針を向けてみるのもいいのだが、中でむやみに掻き回すと毛細血管が大量に破れて内出血を作りやすいし、酷いと血管を破ったり神経を損傷したりするのであまりよくはない。針の半分以上が入っているのに血管に当たらなければ、それはもう深すぎるので少し抜いて探そう。あまり深いと大きい神経や動脈に当たってしまうかもしれない。突き破っていればコブのように腫れてくるのですぐ判る。こうなればもう仕方ないので、その場所から採るのは諦めるべき。

引く速度が速かったら、血管内が脱水した可能性がある。腕の血管なら手を握ったりしてみるとまた引けて来ることもあるようだが、大抵はもう仕方ないので断念。ゆっくりすぎたら針の中で凝血して詰まっている。どちらでもないのに引けてこなくなったのなら、固定が緩かったために針が血管から抜けてしまった可能性大だ。まだ皮膚の外に針のカット面が出てきていないなら(刺し口から血が出てきていないなら)、針を進めてもう一回入れてみる。刺し口から血が出てきているようならそれは針先がもう皮膚の外に出ているということで、駆血帯したままで針を抜いた状態に等しいので早急に駆血帯を外して止血する。あまりないとは思うが、変に力を入れたために逆に血を引いているあいだに針が血管を破ってしまったということもあるかもしれない。そうしたらやっぱり腫れるのですぐ判るだろう。

血管内から泡立っているということは絶対にない。これは針と注射筒がよく固定されていないときに起こる。差し込み式の針はしっかりシリンジに差し込もう。カチッと音が…なんていうことはないので自己判断。

単にやたら痛いだけなら針先が鈍っているだけであまり問題はない。やむなく使い回ししている場合や、一回目がうまく行かなくて二回目を同じ針で取り直す時によく強い痛みを感じる。針先はメスと同じく、すぐに摩耗して潰れてしまう。鈍っている針は血管を逃がしやすいので、できれば切れ味のいい新品を使う。
そうではなく、響くような痛みやビリっとした異常な痛みを感じたらそれは神経に当たってしまったというサインなので、絶対にそれ以上針を進めてはいけない。そうなったら内出血なんて別にもうどうでもいいので、とにかく早く針を抜く。それから駆血帯を外して止血。ちょっと軽く当てただけでも数日間はその神経の範囲が変な感じになってしまう(痺れ、痛み、特定の角度で痛い、何となく感覚の異常があるなど)。気をつけよう。

 

真空管採血について


 一番始めに書いたうちのもう片方、真空管での採血について。現在病院でやる採血は真空管を用いてのものが主流になっている。僕は人生で山ほど採血されたことがあるが、シリンジでの採血は一二度しかお目にかかったことがない。真空管を使うメリットとしては、以下の何点かがある。

  1. 分注の手間が省ける: シリンジ採血では、注射器に血を溜めたまま検査課に回すわけにはいかないので採血後スピッツ(真空管)に分けなければいけない。時間をかけると凝血するし、血が針を二回通るので赤血球が壊れて溶血しやすい。
  2. コスト削減: どっちにしろシリンジ採血でも真空管を最終的に使うのだから、採血毎回ごとにシリンジ一本分のコストが削れて経済的。
  3. 感染のリスクと針刺し事故の低減: 真空管採血では血液の逆流が少ないので、採血される側にとって感染のリスクが減る。同様にリキャップ(使用済みの直針にもう一度キャップをすること)によってうっかり指を刺したりする可能性が少ないので、採血する側にとっても安全。

ところで真空管とはこんなもの。キャップつき試験管とでも言おうか。

 蓋の色によって添加剤がわかる。たとえば何も入っていないのが赤、EDTA-K2添加は紫、ヘパリン添加は緑など。メーカーによって様々なようなので不安ならラベルを読む。また、添加されている薬剤によって検査の項目も違う。例えば多めのクエン酸ナトリウムなら血沈、フッ化カリウムなら血糖といったふうにだ。採る量も検査項目によって違うが、これは管の真空度によって量が決められているので放っておいてよし。"真空管"と呼ぶことから判るように管内は陰圧(低気圧…)になっており、ストローと同じ原理で血を吸っていく。

真空管採血にも二通りあって、片方は翼状針+チューブ+真空管、そしてもう片方は直針(と呼ぶのか)+ホルダー+真空管で行う。どちらも針は両側ともに針になっており、皮膚に刺すほうと真空管に刺すほうが決まっている。直針?のほうは逆血確認ができないためやや面倒。それに真空管を差し込む時に直接振動が針に伝わってぶれやすいような気がするので、僕はチューブを通す方が好きだ。
それで、瀉血真空管を使うとする。何だか面白いし別段悪いことはないのだが、真空管は使い回したくても性質的に使い捨てのものである。針を刺して穴を開けた瞬間に中の陰圧は失われてしまうため、ただの試験管としての再利用しかできない。引っくり返して言うと、大量に買い込むか数回きりで我慢するかしかない。大量に買い込めば嵩張るし、比較的安いとはいえ(日本はどうだろう?)経済的に優しくない。そもそも注射針よりも入手しづらく、買えるとしても数本ずつバラで売ってくれることはあまりなく100本単位くらいで買わなければならない。ボールペン100本でも結構嵩張るというのに、真空管は大抵太さ2cm弱・長さ10cm弱くらいだ。とにかく場所を取る。

 

抗凝固剤と凝固促進剤の種類


 ところで上にも書いたが、真空管には中に薬剤が添加されているものが少なくない。一番多いのは抗凝固剤で、放っておくと血液はすぐ凝固してしまうがこれを添加することによって血小板の働きを抑え、凝血を遅らせる。クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)やEDTA(エチレンジアミン四酢酸)、ヘパリンがよく使われる。因みにヘパリンは留置針を繰り返し使いたい時にこれでロックをかけて血で針が詰まるのを防ぐのにも用いられる。血糖測定に使うフッ化カリウムや蓚酸カリウム(これらは血球による糖分の消費を阻害する)も抗凝固剤だ。
クエン酸ナトリウムは3.8%あたりの溶液がよく添加されている。これまたアスピリンと同じような妙な性質があって、1.5-10%の低濃度では抗凝固作用があるが30%にもなると逆に凝固を促進する。
凝固促進剤にはトロンビン、ビタミンK、カルシウムなどがある。抗凝固剤または凝固促進剤が添加された真空管は採血直後に転倒混和させなければならない。軽く管を引っくり返すくらいでよい。がしがし振ったりしない(笑)。
この他、何なのかはよくわからないが管壁に血液が付着するのを防ぐ物質が管内に塗られていることもある。これは勿論転倒混和の必要はない。

 

 

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