+傷口の手当

 

勝手に自傷の程度を定義


刃物で皮膚を切れば切創ができる。ガキでも知っている。鋭器損傷は大別して3種類に分けられ切創とは…というと法医学講座になってしまうので、主題が看護であるここでは割愛。切創がどんな傷かは誰でも判ると思うのでこれも放置。まず以降の説明のために自傷の(もっと一般的には、切創の)程度を定義してみる。正式な(学術的な)定義ではないということを断っておく。

表皮まで。普段紙で指を切ったり、新品ではないカッターで切りつけたりするくらいのレベル。一度の(傷が一度塞がるまでの)出血量はかなり多めに考えても2mLにも達しない。痕はケロイドになりにくく、1週間以内には完全に治癒するが、完全に痕が残らないとは限らない。縫合とは全く縁はない。

真皮まで。普通のカミソリで少し力を入れて切りつけたり、多分羽根の薄いプロペラが回っているところに指を突っ込んだりするとこれくらいの傷になる。出血量は一度で上限50mLほど。腕なら容易に脂肪に達する。体質や損傷の箇所によってはケロイドになり、塞がった傷は皮膚が引っぱられるなどして治るまでに何回かまた開いてしまうことも多い。場所によっては皮下静脈を切ってしまうことがあるが、こうなると止血しなければ出血量は100mLを超えることもあるだろう。痕は残りやすい、というか九割方残る。血やグロいのがかなり苦手な人なら傷口を見れば恐らく泣き出す。この中でも重度に近いものはそろそろ縫合が必要になってくる。

皮下組織に達するもの。メスや西洋カミソリでそれなりに力を入れて切ったり、或いは普通のカミソリでも反復的に食い込ませるように切ると(これはもはや刺創だが)、浅層の静脈・腱などに届く。静脈に当たらなくても切りつけたそばから血がだらだらと流れ出し、これだけでも数十mLになるだろうが、静脈を切断すると出血は数百mLになることがある。それどころか神経や動脈を損傷する危険も高く、神経に当たれば数ヶ月続く激痛・動脈に当たれば生命の危険さえある。傷痕は形成外科か何かで処置しなければ一生もの。放っておけばケロイドにならないほうが奇跡で、それ以前に縫合してきてくれと泣いて頼みたくなるのが重度の切創。"自分は結構血とか傷とか平気"などと宣う一般人(非自傷者)でもほとんどはさすがに「うわあ…」となる。元からそういったものが苦手な人ならきっとトラウマになる。

 

使用器具


というわけでほぼ無意味な話を延々としたが、メインは手当。まずはモノの紹介を。

一般的には75%アルコールだが、オキシドール(3%過酸化水素水)もまだ使うみたいだ。他には茶色のイソジンや、今の子供はもうほとんど知らないと思うヨードチンキや赤チンも傷口の消毒に使われる。どれも家になくて金も出したくないなら別に塩を使ったっていいんだ!…切るのよりも遥かに痛いが。但し、膿汁ジクジクの場合などはむしろ塩漬けにしてしまったほうが治りが早い気がする。切創ではなかったが、辺鄙な山奥にいたためにアルコールもオキシドールもない状況化で化膿した傷口を塩で消毒したことがある。アルコールが滲みて痛いのは周知の事実だが、比較にならないくらい塩は更に痛い。しかも傷口が長らく茶色のままで、その上陥没した状態で残る。但し治癒が早い。ついでにいうと、イソジンはアルコールほど痛くないように感じる(気のせい?)。

アルコールに話を戻すと、液の状態であるものと脱脂綿に染み込ませた状態(アルコール綿、通称アル綿)のものとがある。使いやすいのはアル綿だが、財布に優しいのは液状のほう。でも日本は酒税がかかるのか、だとしたら何とも言えない。因みに売られているアルコール濃度は50-55%, 75%, 95%, 99%の4つが一般的だが、消毒に最も効果があるのは75%であり、"消毒用アルコール"となっているのもこの濃度のものだ。僕はアルコールランプ用燃料と消毒用をまとめているのでいつも95%を希釈して使う(笑)。5mLメスフラスコに入れて(左)常備していたりする。
消毒するのは切るのと全く別種の痛みで、切ったり刺したりの痛みは耐えられても消毒は駄目という人は結構いる。それでも化膿したりすると面倒だし、大きめの傷口だと細菌が入り込んで感染しやすいので、嫌でも或いは嫌がられても消毒はしよう。ただ偶然怪我しただけの人ならまだしも、リストカッターだったらこれくらい大丈夫だろう?(…と思うのだけれど。)

ガーゼは小さく分けてあるものと一枚まるごと売っているものとがある。実はドレーンの周りに敷くY字ガーゼとかまだ色々な種類があるのだが、一般的にお目にかかるのは冒頭の二種で、切創の手当にもこれらしか使わない。別に用途に違いはないが、衛生的に好ましいのは分けてあって個別包装になっている方、好きなように使えて便利なのは大きい方だろう。個別包装のものはだいたい7cm四方の四つ折りまたは八つ折りガーゼであり、普通に刃物自傷する分にはなかなか手頃な大きさ+厚さになっている。広範囲で切りつける場合はたいがい軽度である気がするので、それの手当には一回か二回くらいに開いて使えばよい。大きいガーゼは傷の大小に合わせて適宜裁断して使えるので便利だが、いちいち出しては戻し…と衛生的にはかなり微妙。重度の場合には使わないほうがよい。

ガーゼを止めるテープも当然必要になる。紙製、不織布、またはビニールのもの、留置針固定のテガダーム(透明でラップみたいなやつ)など別に何だっていいのだが、左の写真の通気性ビニールテープが使ってみた中で最も良い。紙製と不織布のものはかぶれ易く、片手で千切るのも少し面倒だ。ビニールテープは一番かぶれそうで中々かぶれないし(皮膚が弱い僕でもあまりかぶれない)、千切りやすい。勿論セロテープなどは空気も水も通さないので不織布テープ以上にかぶれやすいため長時間固定しておくには絶対宜しくない。テガダーム自体は使ったことがないが、テガダーム状の傷当てパッドをよく使う。ほとんどの場合はかぶれないのだがあまり長い時間貼り続けていたり皮膚にテンションがかかりすぎたりしているとかぶれることがある。

 


傷当てパッド(左)は巨大絆創膏みたいなもので、傷に直接貼り付けることができてかなり便利だが、如何せん高い。自傷の手当に最低限必要な7cm×5cmくらいで確か一枚100円弱はしたはず。傷の程度によっては治癒するまでに何回も交換しなければならない場合があるので、頻繁に切る人が使うとかなり勿体ない。因みに100均にて、5枚入りでまあまあの大きさの傷当てパッドが売られている。なかなか使えるが、出血量が多いと血が滲み出してくるため注意。

 

リストカッターといって一般にイメージされるのは「手首に包帯巻いてる人」な気がするが、実践的には何だかいらない件。また、傷に何も当てずに直に包帯を巻くものだと勘違いしている人が多いように思う。"包帯に血が滲んでいる"というのはほとんど有り得ないし、実際そうなっていたとしたらガーゼの量が少なすぎたということで手当の失敗例である。
傷当てパッドを使うならこれは皮膚との密着状態がかなり良いので、包帯はほぼ必要ない。ガーゼだと、テープで止める場合にどこかしら隙間ができたりテープが服とこすれて剥がれてきたりするので、包帯を巻いておくほうがいい。とはいえなくても困らないし、いちいち巻いたりほどいたりするのも手間がかかる。ただぐるぐると巻き付けるだけではほどけやすく、巻いた意味がなくなるのでちゃんと麦穂巻きにしておく(詳しくは以下の節を参照)。

鉗子と書くと特別そうに見えるが要はピンセットであって、アル綿をつまむのにはこれを使う方が衛生的に望ましい。包帯以上に必要はないといえばそうなのだけれど。

 

軽度切創の手当


やっと本題。まずは軽度切創の手当から。

1. 消毒
切っちゃった。とりあえず滲んできた血を見て暫しの間遊ぶ(笑)。軽度くらいだと数分放置するだけで、塞がってほしくなくても傷は勝手に塞がる。圧迫止血の必要すらないが、血が垂れてきていたり、或いはさっさと血を止めたいときはティッシュでも何でも適当なものでちょっと抑えておく。血管を切りつけたわけではないので、30秒も抑えればだいたい血は止まる。血が止まったらアル綿か消毒液を染み込ませたガーゼなどで傷を拭く。内側から外側へ向かって螺旋を描くように消毒するのが正しいが、どうせ傷は浅いし感染のリスクが低いので適当に拭いても大丈夫だと思う。

2. 傷口の保護
消毒し終わって傷が完全に塞がっているようだったら、ガーゼも絆創膏もなしで放置しても大きな問題はない。しかし指先や手などは、うっかり他のものを擦ったりするとその度に痛い。或いは塞がっていそうに見えて実はしっかり塞がっていなかったりするので、血で衣服が汚れてしまう可能性もある。血は洗濯しづらいため、特に淡色の衣服でこれは避けたい。というわけで傷口を保護する。絆創膏でも全く以て大丈夫だし、ガーゼも二つ折りくらいで十分である。包帯なんか必要の"ひ"の字もない。
僕は中学時代に教師に自傷がバレてから毎日保健室に連行されて手当を受けさせられていた。当時は軽度で、血なんて滲む程度にしか出ていなかったのにああ過剰手当の何と無駄なこと。既に塞がった傷に傷当てパッド(大)+ガーゼ四つ折り+亜麻仁油紙+包帯という念の入れよう。これを毎日繰り返していたのだから、よっぽど金と時間が余っていたのだろうか。

3. 治癒まで
普通、一日から二日で傷口保護の必要はなくなる。瘡蓋ができればもうガーゼも絆創膏もいらないが、条件は瘡蓋を剥がしてはいけないということ。瘡蓋剥がしが面白いのは認めるけれど(殴)、そうすると痕は残りやすくなるし傷の治癒は遅くなるし、そうなるとまた絆創膏などが必要になって無駄なので自然に剥がれるまで放っておこう。

 

中度切創の手当


1. 止血
中度くらいになると、
血は"滲む"より"流れる"に近くなる。血が止まっていない状態で消毒しても、消毒液が流れてしまったり消毒してもまだ血が出てくるために拭き直し…となって意味がなくなるので、まず止血する。これ程度なら数分間の直接圧迫で大体消毒が可能なくらいにはなる。血が出続けているときは四つ折りガーゼでは厚さが足りないはずなので、八つ折り或いは出血量に応じて更に厚く折ったものを傷に当て、揉んだりせずにじっと抑える。

2. 消毒
消毒する要領は上の軽度切創と同じようなものだが、傷が深めなだけに感染リスクが高いので、"正しく"消毒する。血が完全に止まったわけではなくても、"滲む"程度になればもう消毒しても構わない。因みにかなり痛いのを覚悟しておきましょう(笑)。

3. 傷口の保護
適度な大きさの傷当てパッドがあるならば最も良い。ただしパッド部分の傷に触れる面に手を触れてはいけない。通気性のものである場合(テガダーム状のもの以外)はともすると血が滲み出して来るため、一応二つ折り程度にしたガーゼを更に上から貼っておく。ガーゼだけの場合は八つ折りくらいにし、テーブで止める。乾いたガーゼは傷口に張り付いて剥がすときにやたらと痛いので、ガーゼは濡らしておく。

 

左の絵みたいに十字に止めたくなるのだが、こうすると四隅が浮いてしまうので右のように辺に沿ってまず止める。四辺を止めると真ん中が浮くので更に真ん中も止める。
また、かぶれにくくするためにはあまりきっちりと止めすぎない方がよい。

 

今更だが僕の画力には突っ込まないこと!とにかく、これは横から(断面を)見ている視点だとして、真ん中の四角い何かがガーゼである。正しい止め方は右のほうで、テープをガーゼの形に沿わせる。左のように止めると皮膚がむやみに引っぱられるためにかぶれやすくなる。かぶれると時に切創より治るのに時間がかかったりして腹が立つし、かぶれた上からまたテープを貼るのも何なのでうんざりする原因となる。
ガーゼが浮いたりテープが剥がれるのが気になる場合、包帯を巻くと解決する。紐でも巻き付けるようにするだけだとほどけて更に煩わしいだけなので、上でも書いた麦穂巻きにする。

4. 治癒まで
中度切創は治るまでに何度かガーゼを交換しなければならない。一日以上貼りっぱなしにしているとかぶれたり、通気性が悪いためにむしろ治癒が遅れたりする。普通は風呂前に外し、風呂の後に傷口周辺が十分乾いてから3と同じことを繰り返す。言う迄もないが出血量は減っているかまたはもう出血していないので、ガーゼの厚さはそれに応じて薄くしていく。但し、傷が開きやすくもう何日も傷が塞がっていたはずなのに突然また出血するということもよくあるため、完全に肉が再生したことを確認するまではガーゼは貼り続けることを薦める。

 

重度切創の手当


何であれまずは止血。血管に当たっていなければ止血は中度切創の場合と同じく直接圧迫止血で構わないのだが、動脈を損傷している場合だと直接圧迫があまり効かないので間接圧迫で止血する。出血している箇所より中枢側=心臓に近い側にある止血点を指で押さえるか駆血帯を結んで血流を止める。損傷したのが静脈か動脈かは血の出方で判る(心臓の拍動に合わせて鮮やかに赤い血が脈打つように吹き出していれば動脈)。
で、管理人は中度止まりなので実はこの後の処置は実際やったことがないのだが…
脂肪層が見えているとかいう程度で、神経や血管を損傷していなければ手当は中度切創の場合と同じで構わない。しかし腱が見えているような場合や、皮下静脈でなく浅層の静脈(橈骨静脈や尺骨静脈など)を損傷していたら、頼むから病院に行って縫合してもらってください。神経損傷なら尚更のこと。治療してもらっても何ヶ月も腕が使い物にならなくなることがあるのだから。動脈切断で傷口がそこそこ大きければ、止血がうまく行かずにまず意識を喪失し、そのため止血も続けられずに血液だけ流失し続け、出血性ショック或いは失血によって死に至る可能性もある。自傷で大動脈や総頸動脈・大腿動脈などのかなり太い動脈を損傷することは稀なはずなので途中で発見されれば何とかなるかもしれないが、普通自傷は人がいないところでするからかなり危険ではないだろうか。
因みにカーラーの救命曲線によると、おおまかな値ではあるが多量出血は30分後での死亡率は50%、1時間で100%となる。

 

治癒してから


傷口が塞がり皮膚組織が再生し終わるともう治癒した事になる。ところが、結合組織が再生する際に過剰に増殖するとケロイド(狭義には瘢痕性ケロイド)となる。説明しても判りづらいので写真。腕は結構綺麗に治っているので脚の方を晒すという出血大サービス(笑)。

赤い紡錘形の傷痕がケロイドである。これだとやや判りにくいが、触ると盛り上がっている。平らであってもいつまで経っても赤いままなのがケロイドで、正しく治癒した場合は写真にも写っているもののように白くなる。

ケロイドになりやすい体質とそうでない体質があるらしく、僕は新品カッターで切りつけた程度でケロイドになるくらいのケロイド体質なようだ(苦笑)。ケロイドになると10年は優に痕が消えず、ものによっては一生残ることがある。画像中で一番大きいケロイドは4, 5年目のはずだが、出来た当時から全然何も変わっていない気がする。気になる場合は形成外科かどこか(火傷の痕とかを治してくれる科…)に行くとケロイドに直に注射を打って治してくれるらしい。

 

切り付けの方向


全く関係ない話になるのだけれど、リストカッター(アームカッター)は切り付けの方向で3種類に分類できるんじゃないか。腱に対して垂直に切りつける"横派"、腱に平行に切る"縦派"、方向なんか関係なく切りつける"めちゃくちゃ派"。何となく横派が一番多いような気がする。それに一般に手首を切って自殺しようとする人は"横方向"に切っているようだ。かつての知人に3人ほどリストカッターがいたが、うち2人が横派でもう1人が縦派だった。因みに僕自身は縦派。ネットを見ると、網目のように切りつけたり文字や記号を刻み付けている"めちゃくちゃ派"も少なからずいることが窺える。切り付けの方向によって性格が違っていたりするのだろうか。



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