瀉血の基本: 定義と道具

瀉血とは

瀉血、自己採血、血を抜く、シャケる、どれも似たような意味合いである。全て直接静脈(時に動脈)に針或いは鋭利な刃物を刺して血液を出すことをいう。刃物による自傷(リスカ等)との比較はこちらを参照。

必要な器具

最低限必要なのは針(或いはそれに代わる刃物)とティッシュ。なくても構わないが、あったほうが絶対いいのは駆血帯(下を参照)。
アルコール綿と絆創膏はあったほうが好ましい。あとはオプションで注射器(シリンジ)・真空管・血を通すチューブ・血を受ける容器・タオルやシート・抗凝固剤または凝固促進剤を用意するのもいい。注射器や真空管を使えばどれくらい血を採ったのかが正確にわかる。チューブを針に繋げておくといいのは、針からいきなり血が出てくることによってそこら中血塗れにならずに済むから。血を受ける容器は別にゴミ袋でもペットボトルでも構わないが、僕の薦めるのはビーカー。まず口が広いので受ける時に周りにこぼしづらく、それに大雑把な目盛りがついているのでどれくらい出血したかが一目瞭然だ。袋状のものだとまず口をしっかり縛らないとこぼれやすいし、穴なんか開いていた日には後始末を楽にするはずだったのが本末転倒である。三角フラスコに溜めた事があるのだが、放っておくとすぐ凝血してしまうので捨てる時に口から出しづらくて苦労した。
血を抜きすぎてぶっ倒れる予定のある場合は大きなバスタオルやシートを下に引いておこう。血の後始末の面倒さは牛乳を床にこぼしたときなどと比べ物にならない。ベタつくし固まるし、布に付いたものを温水で洗えばまずもう二度と落ちないし、乾いてしまえば冷水でもほとんど落ちず、何より何も知らない他人に殺人犯みたいに誤解される気がする。
参照:シリンジを使った採血/真空採血管について/抗凝固剤と凝固促進剤の種類

針について

血を大量に出したければ、やはり注射針のような中空の針を使うのが望ましい。デザインカッターカミソリのような鋭利な刃物で切るのも、千枚通しや待ち針で刺すのも血管に当たればちゃんと血は出るが(場合によっては血が噴き出すことも=いわゆる「噴水」)、血友病でない限りすぐ凝血して傷口が塞がってしまう。流動している血液は凝固しにくい。というわけで血管内に直接穴の開いた針を差し込んで「血流の分岐点」を作ってしまえばいいのである。

needles1needles2

(注射針。上から23G/22G/21G/18G。二枚目の写真はキャップをしたもの)
中空の針は注射針とピアッシングニードルの二種類が主だ。他には点滴で使う翼状針や留置針(サーフロ)がある。瀉血で留置針なんていう面倒なものを使っている人はいない気がするけれど。

surflo因みに留置針はこういうもの。青いのが22G、赤いのが20Gである。
ピアッシングニードルはピアス穴を開ける時に使うステンレス棒みたいなやつで、注射針よりは楽に手に入るらしい。僕自身はニードルの実物を見た事も触った事もないのでこれについてはあまり詳しくはない。以下に解説するのは全て注射針についてである。




針先のカット角度による分類

レギュラーベベル(RB, Regular Bevel)とショートベベル(SB, Short Bevel)の2種類が存在する。RBはカット角度が12°のもの、SBは18°のものを指す。つまり針の断面はRBのほうが広い。皮下注射や筋肉注射にはRBを、静動脈注射や採血にはSBを用いる。
瀉血にはSBのほうが適している。針の断面が血管に入り切らないと血が出づらく、全部入れようと針を進めすぎると今度は血管を突き破ってしまうかもしれない。そうすると刺した所は腫れるし血は抜けないし、酷い場合には神経を損傷してしまうのでいいことなしだ。とはいえ大きな違いはないので、適当に選べば良い。

太さによる針の分類

太さはG(ゲージ)という単位で表される。数字が大きくなるほど針は細くなる。
メーカーによって異なることがあるが、注射針も翼状針も留置針も針の根元のプラスチック部分の色で太さがわかるようになっている。下はその一覧表。「-」は不明のもの。

ゲージ 外径(mm) 内径(mm)
7G 4.57 3.8 -
8G 4.19 3.43 -
9G 3.76 3.0 -
10G 3.40 2.69 -
11G 3.05 2.39 -
12G 2.76 2.40 -
13G 2.40 1.99 -
14G 2.11 1.69 -
15G 1.81 1.45 -
16G 1.60 1.32 透明(橙?)
17G 1.48 1.12 -
18G 1.26 0.90 ピンク
19G 1.08 0.84 クリーム
20G 0.90 0.62
21G 0.82 0.51
22G 0.73 0.41
23G 0.63 0.33
24G 0.55 0.37
25G 0.51 0.25
26G 0.45 0.23 褐色
27G 0.40 0.21 灰色
28G 0.35 0.17 -
29G 0.33 0.15 -
30G 0.31 0.13
31G 0.26 0.13 ピンク
32G 0.24 0.11 -
33G 0.21 0.11
34G 0.18 0.08 -

needlesup22in18
(一枚目の写真は18G/21G/21G/23Gの針先アップ。二枚目は22Gを18Gに入れてみたところ。すっぽり入る上にまだ少し余裕がある)
このうち医療現場でよく使われるのは18Gから26Gくらいまでで、採血は20Gから24Gくらいで行う(一般的には21Gまたは22G、小児などには24G)。針の内径が小さすぎるとそこを通る赤血球が壊れてしまうため、細すぎる針は使わない。輸血は針が詰まったりしないように20Gかそれより太い針で行う。献血では多量に(多くて400mL)抜かなければならないので効率重視で17Gくらいを使うそうだ。33Gはあの有名な(?)ナノパス33で、蚊の針みたいなものであるため痛みは全くないといってよい。糖尿病患者のインシュリン自己投与に応用されている。あまりにも細くて針通力が弱いので血管まで届かない。
瀉血には16Gから23Gあたりがよく用いられる。中でもダントツ人気は18Gのようだ。僕も18Gを使っている。更に18Gに併せて細い血管用に22Gも常備している。22Gで噴水は絶対不可能である。その針で噴水が出来るかどうか判断するには、針の刺す方と逆側から流水(水道水でよい)を流してみる。針先から水がポタポタと出てくるようなら、その針で噴水は100%無理だ。水のインプット(?)と同じくらいの勢いで針先から途切れる事なく水が吹き出してきたら噴水できる可能性がある。あくまで可能性。血流の勢いや刺した角度などによって噴水できるかは左右されるので、絶対に噴水するとは限らない。しかし滴々だとかなり凝血しやすくてもどかしい。 目安としては、刺してすぐの22Gなら1秒に2滴ほど、詰まりかけの18Gは1秒に約5滴ずつ出る。どう角度を変えてもこれより遅いようなら、針が血管に入り切っていない(あまりない)か針が元から詰まっていることを疑ったほうがいい。不良品で針が詰まっていることは少ないが、細い針では特に可能性が高い。実際開封したばかりの22Gの針穴が詰まっていたことがある。

針に関する注意

針は原則使い捨てとする。何の防衛機構も経ずにいきなり血管内に入れるのだから、雑菌がついていたら体にとってはどうしようもない。もちろんほんの少しだけなら白血球がなんとかしてくれなくもないのだが、どんな菌がついてくるか知れたものではない。アルコールなどで消毒するのも万能とはいえない。
これから瀉血を始めようと思う人は、まず23Gや22Gなどの細い針から始めよう。18Gが広く使われているからといきなりそんなに太いのではまず入らないかもしれないうえ、それなりに太いために怯んでしまうこともあるだろう。切れ味のいい23G, 24Gなら、痛いと評判の(?)足の甲でもそれほど痛くはない。だが更に細いものではうまく抜けないことが多い。
針の使い回しをしている場合、もし針を刺す時にいつもとは違ったしかし持続的ではない痛みがあれば、それは針先が鈍っている。皮膚対ステンレスとはいえ、一度刺すだけでもかなり先が潰れてしまうものだ。血管にも刺さりづらくなってしまうので研ぐべき。

駆血帯

別になくても構わないといえばそうなのだが、血管を探し易くするためにも血を勢いよく出すためにも結構重要なものだ。単なるゴムチューブ(左の写真)、ピンチ付きゴムチューブ、ベルト状など様々な形態のものがある。勿論太めのゴムか何かで代用する事もできる。
刺したい血管よりも中枢側に縛ることで静脈血を血管内に溜めて血管を怒張させる効果がある。普段血管が見えづらい人(僕のように)にとっては必須だ。血管を見つけ易くするほかに、駆血帯をすることによって血の出る勢いがかなり変わる。
結び方や縛る強さなど、詳しい使い方はこちら




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