刃物自傷(鋭器自傷)の器具について

前口上

自傷方法の中で最もポピュラーなのはやはり鋭器自傷だ。爪から医療用メスまで何でも使用される。多分、というか確実に小型刃カッターを使う者が一番多い。

カッターナイフ

小型刃と大型刃に大別される。小型(刃幅9mm)のものはほぼどこのコンビニでも安く買える。大型は刃幅18mmのものをいう。持っていてもあまり怪しくなく(但し軽犯罪法に引っ掛かる虞れがある)、きっと自傷者の大部分が通る道。管理人はちょっと苛ついたときの軽い切り付け用として未だにちょくちょく使ったりする。
cutterメーカーはあまりに多いので何とも言えないが、個人的には無印良品のもの(左)がデザイン的に結構好き。オルファのものも切れ味がいいと評判らしい。
良くも悪くも、カッターは(初回を除いて)切れ味が悪い。それなりに力を入れても表皮を引き千切り毛細血管から血を滲ませるくらいしかできない。逆に言うとだからこそ安全だ。切れ味が落ちたら刃を折るという手もあるのだが、実は自傷用途的にはあまり変わりもしない気がする。ついでにいうと悲惨なほど錆び易い。刃の部分に素手で触れるなどは問題外である。梅雨時には外気に数日間晒してあるだけで簡単に錆びてしまう。結局刃を換えればいいのだけれど、経済的に痛い。大型のほうが小型のものより切れ味が総じて良い(気のせい?)が、それでも使い古した剃刀程度だ。
その切れ味の悪さに慣れて切る時にいつも力を入れていると、うっかり新品のカッターでも同じくらい力を入れてしまいやすい。そうするとかなり痛い上にガーゼが必要なくらい出血する。注意すべきというかチャンスというか。
また、刃を長く出しすぎるとぶれるし力が入りにくくなる。あまりに刃が薄いので、長く出したままではスポンジさえ刺すことができずに折れてしまう。出す限度は上の写真くらい。折る刃式のものもそうでないものも同じである。

カミソリ

razorカッターに次いで使用者は多いんじゃないだろうか。ホテルなどに置いてある安全剃刀からスウィーニー・トッドが使うような大きい西洋剃刀まで色々ある。普通は「眉そり用」とか「顔面ケア用」とか何とか書いてあるもの(化粧用剃刀)を使う。メーカーは貝印とフェザー(フェザーフラミンゴ)が主流。ガード付きとガード無しというのがあるのだが、自傷用にはもちろんガード無しのほうを選択する。ガードありでも浅めに切る分には問題ないし、カッターでガードは簡単に取り除くことができる。とはいえやはり面倒だ。しかもガード付きのほうがやや値段が高い。しかしガード付きのほうが手に入り易い。因みにガードは、剃刀を「正しく」使用する人々がうっかり肌を切ったりしないように刃に巻き付け(?)られているビニール製の細い紐のようなものである。
razor2左上の写真はフェザーフラミンゴのガードなしのもので、折り畳めるので愛用している。よくよく見ると「Better life with Feather」という皮肉な文字が読める(笑)。右下の写真は貝印の長柄ビューティーMで、フェザーフラミンゴはあまり店頭で見かけないため、どこでも買えるこれを最近はよく使用する。青い柄のものはガードありのようだ。金色のものもあるようだが、実物にお目にかかったことはない。
切れ味はかなり良く、新品なら痛みさえ我慢すれば腱まで達するような傷を作る事も出来る。カッターから移行した場合、あまりの切れ味の良さにうっかり思わぬ出血をするかもしれない。触れただけで血が滲むことも多い。そして一本あたりの価格が非常に安い。右の貝印カミソリは5本入りを100円ショップで手に入れた。安全剃刀の替え刃なら更に安いが、やや持ちづらい。
西洋剃刀はあまり見かけないのだが、なくもない。プラスチック柄の安いものから紫檀や銀などを使った高価なものまで色々存在する。安全剃刀でなくこちらを髭剃りに使う理由が趣味以外にはないので、個人的にはこれを(特に高級なものを)見かける度に危険な匂いを感じるのだが、やっぱり僕だけだろうなあ。

メス

scalpel1昨今の手術用メスは基本的に使い捨てである。柄(反復使用)に使い捨ての刃を取り付けて使用する。柄にも刃にも色々な型があるが、メスといって大多数が思い浮かべるようなものは4号柄+23号刃である。初めて見る人は大抵想像していたよりも小さくて驚くに違いない。化粧用剃刀並みの大きさだ。左の写真を見てもらえればだいたいの大きさが判るだろう。これでも大きい方の4号柄であり、3号はもう少し小さい。それに取り付ける刃もまた一回り小さい。刃には様々な形があるが、長めの皮膚切開に用いるのは23号である。24号は23号をほんの少し太くしただけで形はよく似ている。3号柄に合う刃のうちでは、カッターに似た三角形の刃である11号刃あたりが使えるかもしれない。本来は精確なカッティングを行うためのもの。柄はほかに1, 2, 5, 6, 7, 9号等があり、亜種(?)として5B, B3Lなどというものが存在する。刃については英語版Wikipediaの記事に詳しいが、そこに載っているもの以外にもまだ色々な刃がある。
scalpel4+23切れ味は問答無用で良いが、切れ味が落ちるのが早い。だからこそ外科手術においてはオペ中に何本もメスを取り替えるのが普通だ。まあ自傷用には問題ない範囲なのだけれど!しかし問題も多々あり、まず持ち歩くのはかなり怪しい。ほぼどんな言い訳も通じない。刃が付いている状態であれば尚更。所持品検査か何かで見つかれば即軽犯罪法違反でしょっぴかれると思う。それよりそもそもキャップもなく折りたたみもできないのだから、刃付きで持ち歩くというのが至難の業である。ただ、柄だけの状態でメスと認識できる人間は一般にあまりいないと思われ。しかも基本的に手に入りにくい部類のものであり、ハンズで扱っているらしいが詳しい事はよく判らない(管理人は海外在住だった期間あり)。因みに管理人の入手先は通販だが、日本だったら用途とか訊かれるんじゃないだろうか。そうしたら生物学関連で切り抜けるべし、多分。

メスの使い方

使い捨てメスの"使い捨て"というのは刃の部分が取り替えられるためで、別に柄まで使い捨てするわけではない(そんなことしたらコストが…)。ただ初めて使う場合にはバラバラの状態の刃と柄を見て"?"となる人もいるかもしれないので、刃の取り付け方を説明しておく。写真はどれも23号刃と4号柄。
柄と刃はそれぞれ単体ではこんな感じ。

刃の付け根の部分に"23"と数字があって型を示している。見えないのだが柄も下の方にちゃんと"4"と刻んである。

柄のどちら側に取り付ければいいかはさすがに誰でも判るはず(笑)。で柄の細くなっている先端に刃の穴の開いている部分を差し込む。柄の首が斜めに削れているが、その向きと刃の付け根部分の向きが一致するようにする。説明しづらいので写真に矢印で強調してみた。

入りゃいいというものでもなく、左のように柄の溝に刃が入るようにしなければならない。でもむしろそうならないほうが難しいかもしれない…

そうなれば後は下までカチッと音がするまで押し込むだけ。完成形は右のように横から見ると平らになっているべき。取り外すときは逆に、付け根部分を裏側から押して浮かせ、先端を持って上に引っぱり上げるだけでいい。
因みに正しい持ち方には二種類ある。23号を使うような場合(長めの切開など)は一般的に下の左のように持つ(卓刀式)。食事のときのナイフの持ち方と同じである。右はペンを持つのと同じで、より小さい15号刃+7号柄などで精確な切開が要求されるときにこうする(執筆式)。気付いたら僕はなぜか自傷時は執筆式だ...

 

デザインカッター・切り出し(彫刻刀)

美術関係の人ならお馴染みの面々。彫刻刀は説明するまでもないが彫刻・木版画の作成に使うもので、そのうち線状の切り込みを入れる時等に用いる、斜めの刃がついているものを切出しと呼ぶ。デザインカッター(デザインナイフ)はシルクスクリーンの版を作成する時などに使用する細いペン型ナイフである。デザインカッターの刃は取り替える事ができる。
学校の美術の授業で、版画や彫刻の授業のたびに怪我人が必ず何人かは出たはず。不注意でかすっただけでもかなりよく切れるので、(一般人なら)驚くほどの血が出る。剃刀と違って先が尖っているので、デザインナイフのほうは静脈を狙って刺すこともできる(切出しは刃が厚い)。
学生さえ持っていて怪しく思われない数少ない刃物のひとつであり、購入するときも絶対に用途を訊かれたりしない。ハンズやロフトでなくとも、普通の大型スーパーの文具コーナーで売っていることも多い。うろ覚えだが、普通のカッターよりはやや高い感じだったかな?
自分語り。僕は両親ともにアーティストだったために子供の頃からデザインカッターの扱い方を習得していた(とはいえ理系である僕の美術センスは並)。中学時代に自傷がバレてからは家のデザインカッターやその他の刃物は当然隠され、彫刻刀は担任が預かっていた。美術の授業の度に彫刻刀を返してもらいに職員室に行っていたのが今では何だか懐かしい。

ナイフ・包丁

armyknifeアーミーナイフ(マルチツール)も手軽で悪くはないのだが、自傷器具としては微妙だと思う。持ち歩きに関してはやや面倒で、例えばビクトリノックスのモデルでいうなら、108mmロックブレードのものは軽犯罪法どころか銃刀法に抵触するし、そうでなくとも58mmのクラシックで軽犯罪法に則って没収された例もあるそうな。実際手に取ってもらえばわかると思うのだが、58mmモデルにおけるラージブレードは「こんなのブレード(刃)じゃない!」と喚きたくなる貧相さである。凶器としての使用を懸念されること自体意味が解らない(人に刺したりなんかしたら刺さる前に折れそうだ)。但しこんな貧相なブレードでも研げば剃刀並みの切れ味を出す事もできるという。58mmでなくとも、普通に見かける81mmモデル(スパルタンやハンターなど)の刃も、見た目から物凄い切れ味を期待するが実のところはそのまま使うならカッターより滑らかに切れる程度である。
しかしセンチネル・ワンハンド(日本で販売しているかはわからない)の波刃モデルは痛みを追求するなら完璧だといえる。波刃とはつまりノコギリと普通のナイフの刃を合体させたようなやつなので(ちょっと違う)、細かい刃ひとつひとつが皮膚に食い込む。時には同じ箇所が数回切り裂かれることも少なくない。傷は浅くとも血はそれなりに出るし、何よりまず痛い。めちゃくちゃ痛い。センチネル(片手で刃が出せたりクリップがついたりして計4種ある)は108mmロックブレードの一つで、ラージブレードの他にはピンセットと爪楊枝しかついていない。だから比較的安いし、薄いので持ち歩くのにも何かと便利だ(あれ?)。但し、波刃を研ぐには技術がいる。
だがとにかく高い。コピーブランドなど安いものは使うに使えない代物だし、クオリティを追求するならかなりの金が飛ぶ。有名なブランドはやはりビクトリノックスとウェンガー(ビクトリノックス傘下だが)で、僕は理由なくウェンガーがいけ好かなく感じるのでビクトリノックスを数本所有している。コレクションしたいくらい好きなのだけれど値段が...と話が逸れているが、とにかくあまりに高いので自傷するには勿体無い。でも普通にマルチツールとして使うのはこの上ないくらい便利。
包丁はというと、これはもはや自傷用というよりは自殺用(場合によっては他殺用...)のもので、というのも最も小さいペティナイフでさえ刃渡りは十数cmあるので取り回しが不便だからである。だが新品のものやよく研がれたもの(言う迄もないが鋼材はそこそこ良くなければならない)の切れ味は見事だ。ただ、最近は色々な殺人事件の影響などがあってそう簡単には買えないようである上、値段もそれなりにするのでわざわざ自傷用に購入する理由もない。日本で学生やってた頃に制服姿のまま無印良品でペティナイフを購入できた事があるんだが(用途?自殺用でしたが何か)、あの頃は平和だったんだろうか。そうでもない気がするけれど...。

何だかんだ言ってカッターなんかより更に世界的な使用頻度が高いと思うのがこれ。いきなり刃物から始める人はあまりいないんじゃないだろうか。初心者でなくとも、どうしてもむしゃくしゃするのに手元に刃物がないとき、周囲が人だらけで刃物を出せないとき、人は原点に立ち返る(笑)。僕の原点は間違いなく爪引っ掻きで、物心ついたときから嫌な思いをすると腕や手を思い切り引っ掻いていた。当時はみんなそうしているもんだと思っていた...。
普通血は出ないと言い切ってよいが、実は同じ所をしつこく強く掻き毟り続けるとじわりと血が滲むことがなくもない。傷が火傷のようにヒリヒリするが、痛みが一日以上持続する事はないだろう。痕も数日で跡形もなく消える場合がほとんどである。当たり前だが、切りたてで摩耗していない爪の傷害力は結構高い。

その他

別に刃物でなくたって僕たちは日常生活の中でありとあらゆるものでうっかり擦り傷を作っている。その全てを凶器とすることができる。鋏・のみ(鑿)やピーラー・食卓用ナイフなどとりあえず刃物の形態をとっているものから、定規・フォーク・プラスチック片・ガラス片・コンパス・千枚通しなど枚挙にいとまがない。ついこの間ペンを素手で折ったときはプラスチック片の予想以上に強い傷害能力に驚いた。ガラス片なら言わずもがな。映画では殺人の凶器として描写されている事も少なくない。実際かなりよく切れるし、それなりの厚さがあれば刺さりもするだろう。
鋏。これは意外と侮れない。剃刀のように引っぱって切りつけるのは弱いが、普段のように、つまり肉を挟んで切るのは効果抜群。但し最後まで挟み切ってしまうと肉塊がボロっと取れることになってしまう。そうすると止血が面倒な上に感染し易くなり、また長らくクレーターのような傷跡が残る。そもそも痛い。皮膚が切れるのが痛いのに加えてきつく挟まれていることによる痛みがある。洗濯ばさみで皮膚をつまんでいるのと同じ要領である。




ホーム

inserted by FC2 system